カイジのスピンオフ『トネガワ』と『ハンチョウ』が悪魔的面白さ
福本伸行先生のギャンブル漫画『カイジ』。
近年は引き伸ばされて薄味になってしまった内容に幻滅しているファンも多いかもしれないが、『カイジ』の火はまだ消えていない。
『カイジ』のスピンオフである『中間管理録トネガワ』と『1日外出録ハンチョウ』が、本編の凋落を補って余りあるほどの悪魔的面白さだ。
カイジスピンオフ第一弾『中間管理録トネガワ』
カイジのスピンオフ第一弾『中間管理録トネガワ』を初めて読んだときの衝撃は今でも忘れられない。「これはすごい漫画だ…!」と思ってたら2017年の『このマンガがすごい!』の第1位を獲得するという快挙。みなさん、こういうの好きなんですね。
主役は『賭博黙示録カイジ』の登場人物、ギャンブル船「エスポワール」で「限定ジャンケン」を取り仕切る利根川幸雄。
「大人は質問に答えたりしない」「野茂はウスノロ、羽生は根暗、イチローはいけすかないマイペース野郎」などの名言で知られる名悪役だ。
カイジスピンオフ第二弾『1日外出録ハンチョウ』
カイジのスピンオフ第二弾は『1日外出録ハンチョウ』。
『ハンチョウ』が出てきたときは「どうせ『トネガワ』の二番煎じだろ」と思っていたが、やっぱりおもしろい。流行りのグルメ漫画の要素を取り入れてきたあたりもウマイ。
主役は『賭博堕天録カイジ』の登場人物、地下労働施設の班長・大槻。
『賭博堕天録カイジ』では本心の見えない不気味な笑みを浮かべていたが、『1日外出録ハンチョウ』では心の底からの笑顔を見せる大槻。
『トネガワ』もそうだが、スピンオフ作品を読んでいると本来悪役であるはずの利根川や大槻がだんだんいいヤツに見えてきてしまう。
例えば、最近発売された『1日外出録ハンチョウ』第2巻の表紙がこれ。
絶妙なポーズでステーキに塩を振る「ハンチョウ」大槻と、笑顔で見守る部下の石和と沼川。
すごく楽しそうでカイジをイカサマでハメてた奴らには見えない。
悪魔的発想・・・!利根川と大槻が主役・・・!
最近は漫画のスピンオフも増えている。『進撃の巨人』なんかはやたら多いし、シリアスな漫画のギャグっぽいスピンオフとかもよくある。
そんななかでも、『中間管理録トネガワ』と『1日外出録ハンチョウ』の完成度は群を抜いていると思う。本家の雰囲気を最大限に活かしつつ本家とは違う攻め方で魅せる。すばらしい。
カイジの敵役を主人公に据えてギャグ漫画にするというこの構造はいったい誰が考えたのだろう。編集者か、カイジの生みの親・福本伸行先生か、それとも原作の萩原天晴さんか。誰にしてもすごい。
まさに悪魔的発想・・・!
企画した人のインタビューを読んでみたい。
トネガワとハンチョウに漂う雰囲気は、福本作品だと『最強伝説黒沢』の初期の頃に近いといえば近い。アジフライとか言ってた頃。
が、黒沢では独身中年男性の悲哀みたいなのもテーマの一つだったので、全編ギャグ満載だったかといえばそうではなかった。
その点、トネガワとハンチョウは完全に読者を笑わしにきている。狙ってきている。
突き抜けている・・・!笑いのリミッター・・・!
こうなると、読者としてはもう笑うしかない。
多用する・・・!倒置法と体言止め・・・!
『カイジ』というか福本作品の独特過ぎる絵とワードセンスは唯一無二。
『トネガワ』も『ハンチョウ』も、絵柄はもちろん、ショックを受けると「ぐにゃあ〜〜」となる演出など細かい部分も本家そのもの。
そしてセリフ。
多用する・・・!倒置法と体言止め・・・!
福本ワールドならではのセリフ回しだと、普通のことを言っているだけで笑ってしまう。文字に起こしただけで面白い。
- 入れてある・・・!隠し包丁・・・!
- ムズムズする・・・!鼻と喉の間・・・!
- ついている・・・!キッチンや流し・・・!
そんな福本ワールドの中で、利根川も大槻も仕事や遊びに真面目に向かい合っている姿が最高にいい。サラリーマンには共感できる部分も多いと思う。
暴利を貪る帝愛グループの幹部だろうが、地下のタコ部屋で働く債務者だろうが、とどのつまり、同じ。真面目に働く大人は、みんなどこかでつながっているものなのだ。
小ネタ満載・・・!ワンスアポンアタイムインアメリカ・・・!
小ネタが満載なのもステキだ。
『ハンチョウ』第2巻だと、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』を連呼された次の回で「Once upon a time 」Tシャツを着る大槻がツボだった。
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ちなみに『ハンチョウ』で一番好きなキャラは大槻の側近・沼川。第1巻・第2話で「うわぁ〜〜!班長っぽい!」と相槌を打つ沼川の(≧▽≦)という顔に滲み出るいいヤツ感が最高。
登場する料理で一番食べたいのは第1巻・第3話のオムレツライス(味覇入り)です。
期待したい・・・!さらなる展開・・・!
『トネガワ』も『ハンチョウ』もこの先が楽しみだが、さらなる展開にも期待したい。
スピンオフの次は、やはりリメイクしかないだろう。
福本伸行風『ドラゴンボール』とか福本伸行風『スラムダンク』とか誰か描いてください。福本伸行風『進撃の巨人』とかは意外とありえるんじゃないだろうか。同じ講談社だし、関西弁版もあったくらいだし。ムリかな。