板垣巴留『BEASTARS』感想〜このマンガがすごい!本当にすごい!
「このマンガがすごい!2018」のオトコ編第2位に輝いた、板垣巴留『BEASTARS』。
今回は『BEASTARS』が1位になるものだと思っていた。それくらいこのマンガはすごい。
本当にすごい。
もちろん面白いんだけど、「面白い」よりも先に「すごい」という感想が出てくる。
何がそんなにすごいのか。
『BEASTARS』とは
『BEASTARS』は週刊少年チャンピオンで連載中の板垣巴留(いたがきぱる)によるマンガ。2018年2月現在、7巻まで刊行されている。
肉食獣と草食獣が共存する世界で、全寮制の学校に通う擬人化された動物たちが織りなす群像劇。
…という説明を聞いても意味が分からないだろうが、そうとしか説明できない内容。
1巻は無料で試し読みできるので、気になったらまず読んでみてほしい。
ただ、1巻だけだとまだ『BEASTARS』のすごさが伝わらないかもしれない。
リアリティのある世界設定がすごい
肉食動物と草食動物が共存する世界の物語というとディズニー映画『ズートピア』が思い浮かぶかもしれない。
『BEASTARS』では食事シーンや性的なシーンなどさらに突っ込んだ表現で擬人化した動物たちを描いている。
人間ではなく動物なので、オブラートに包まれているのか逆に生々しいのかよく分からなくなるが、少年誌(週刊少年チャンピオン)に掲載していいの?と心配になるくらい性的にも暴力的にも露骨な描写が結構出てくる。
現実にはありえない学園生活を送る動物たちの日常が細かいところまで描かれていて、妙なリアリティと納得感がある。
作中ところどころに「肉草大戦」みたいな歴史を感じさせる言葉が出てきたり、単行本のおまけページに細かい設定を描いていたり、作者である板垣巴留先生の頭のなかに確固たる世界が創造されているのは間違いないだろう。
隅々まで抜かりなく構築されている世界設定。すごい。
先が読めないストーリーがすごい
はじめは動物の生態と性格を織り交ぜてスクールカーストを描くみたいなノリかと思っていた。
学園の演劇部の人間関係(動物関係?)がメインストーリーだった2巻くらいまではそんな感じもあったけど、3巻で街の裏市が出てきたあたりからどんどん世界が広がって、先が読めなくなってきた。
第1話で描かれた食殺事件の犯人は?というのがストーリーの軸になるのかと思いきや、6巻の時点ではそこまで深く掘り下げられておらず、犯人探しみたいなミステリー的な要素はほとんどない。
(2018年2月10日追記)
と思っていたら、7巻でまた食殺事件の犯人探しがフィーチャーされてきた。学園の中と外を行ったり来たりしてストーリーが展開している。
(追記終わり)
また、学校全体の統率を担う英雄的存在だという「ビースター」。
BEAST(獣)のSTAR(星)。タイトルにもなっている重要なキーワードでありながら断片的に語られるのみで、まだその詳細が明らかになっていない。
…
ネタバレになるので詳細は書かないが、第6巻では主要キャラクターの一人が学校を離れることになり、この先どんなストーリーが展開されるのかぜんぜん想像できなくなった。
そもそも捕食者と被食者が共存するこの奇妙な世界は一体なんなのか。
「そういう世界です」という前提で進んでいくのか、その成り立ちまで描くのか。
少なくとも、『BEASTARS』が描くのはスクールカーストとか青春学園ドラマとかの狭い世界の話ではなさそうだ。
…
ちなみに、本筋とは直接関係ない小話みたいなストーリーもしっかりしていて好きだ。
3巻20話のニワトリのエピソードとか、最高。
荒木飛呂彦『ジョジョの奇妙な冒険』第5部のブチャラティチームメンバーの過去話とか、冨樫義博『ハンターハンター』のジャイロの話とか、短いながらも起承転結のあるエピソードをさらっと描ける漫画家は大好きです。
魅力的なキャラクターたちがすごい
そんな世界で活躍するキャラクターたちも魅力的。
群像劇なのでたくさんのキャラクターが登場するが、それぞれしっかりキャラが立っている。
人間として描いても十分おもしろいマンガになりそうなくらい個性的なキャラクターたちを擬人化した動物として描いているのが『BEASTSRS』のおもしろいところであり、すごいところだ。
それぞれのキャラクターの性格と動物としての生態が複雑に絡みあっている。
例えば、ハイイロオオカミで鋭い牙を持つ主人公レゴシが誰よりも優しかったり、可愛らしいドワーフウサギのハルがビッチ(というか性的に奔放)だったりするギャップ。
優しいが故に肉食獣としての本能と自分の気持ちとのギャップに思い悩むレゴシの姿には、オオカミじゃなくても共感できる。
性的に奔放なハルがそんな風になったきっかけもしっかり描かれていて、マンガとしてのキャラの掘り下げもバッチリ。
学生たちだけでなく、パンダ先生のゴウヒンや市長など大人たちもカッコいい。ハードボイルドを体現しているゴウヒンに憧れない男はいないはずだ。
オリジナリティのある絵がすごい
そして、絵。
これはもう単純にうまい。
擬人化したオオカミとウサギが抱き合うシーンを読者に違和感なく読ませるなんて、かなりの画力がないとできないことだ。
1巻では荒々しくて読みにくい部分もあったが、巻を重ねるごとにスッキリして漫画として読みやすくなっている。
動物なのに個性をビジュアルで表現できているあたりがすごい。
ドワーフウサギのハルは妙に色っぽいし、メスのハイイロオオカミ・ジュノは確かに美少女に見える。アカシカ・ルイの気高さはセリフがなくても伝わってくる。
擬人化していながら過度なデフォルメはしていない画風はオリジナリティの高いものだと思う。
マガジンの『不滅のあなたへ』を読んでも思うけど、週刊連載でこのクオリティの絵を描いているのはすごい。
結局、作者の板垣巴留先生がすごい
設定とストーリーとキャラクターと絵がすごいとアホみたいに書いてきたが、結局すごいのは作者である板垣巴留先生だ。
読み方は"いたがきぱる"。
公式には詳しいプロフィールが明らかにされていない。
ただ、20代なかばでまだまだお若いのは間違いなさそう。そんなに若いと『BEASTARS』はもちろん、今後さらに名作を生み出してくれるんじゃないかと期待してしまう。
そのほか、女性であるとか美大出身であるとかいう情報もあるが、なんとなく納得できる。
うまく説明できないがどことなく少女漫画の香りがする作風は女性作家の雰囲気があるし、デッサンがしっかりしているのは美大出身だからなのかもしれない。
グラップラー刃牙でおなじみの板垣恵介先生の娘という話は…作品を読んだだけだとなんとも言えないなあ…。
これからも追いかけたい
ということで、「このマンガがすごい!2018」では惜しくも2位だった『BEASTARS』だが、この先が楽しみなすごいマンガであることは間違いない。
これからも追いかけたいです。