『不滅のあなたへ』3巻・4巻感想〜グーグーとリーンの結末に泣く
大今良時の『不滅のあなたへ』が『このマンガがすごい!2018』オトコ編の第3位にランクインした。
ランクイン記念ということであらためて1巻から読み直したら、3巻と4巻で描かれるグーグーとリーンの物語に泣いた。初めて読んだときも感動したけど、何度読んでもイイ。
ということで感想を書きたい。ネタバレになってしまうのでご注意ください。
『このマンガがすごい!2018』オトコ編第2位の『BEASTERS』の感想はコチラ。
『不滅のあなたへ』とは
『不滅のあなたへ』は『聲の形』で高い評価を得た大今良時の漫画。週刊少年マガジンで連載中で5巻まで刊行されている(2017年12月現在)。
大今良時先生は女性。1989年生まれでまだお若い。『BEASTARS』の板垣巴留といい最近は女性若手漫画家がアツいな。
ロバート秋山のクリエイターズ・ファイル特別編に登場している動く大今良時先生はコチラから。
あらすじ
現代の日本を描いた『聲の形』とはぜんぜん違って、架空の世界を舞台にしている『不滅のあなたへ』。
『不滅のあなたへ』がどんなストーリーなのかを説明するのは難しい。
刺激を受けたものへ姿を変化させることができる不死身の存在"フシ"が様々な人間たちとの出会いと別れを繰り返す物語。…といっても伝わる気がしない。
とりあえずマガジンの公式サイトからあらすじを引用しておこう。抽象的すぎてよく分からないと思うけど。
何者かによって“球”が、この地上に投げ入れられた。
情報を収集するために機能し、姿をあらゆるものに変化させられるその球体は、死さえも超越する。
ある日、少年と出会い、そして別れる。
光、匂い、音、暖かさ、痛み、喜び、哀しみ……。
刺激に満ちたこの世界を彷徨う、永遠の旅が始まった。
これは自分を獲得していく物語。
マガメガ MAGAMEGA | 不滅のあなたへ
人間を超越した不死身の存在というと手塚治虫『火の鳥』が思い起こされるかもしれないが、そんな火の鳥的存在のフシ自身を主人公にして思い悩む姿を描くというのが面白いところ。
紹介動画
講談社の紹介動画がYouTubeにアップされてるのでご参考まで。
無料試し読み
第1話は公式サイトで無料で試し読みできる。ただ1話だけだと面白いのか面白くないのか判断できないかもしれない。
グーグーとリーンに泣く
3巻、4巻に登場するグーグーとリーン
まだ5巻までしか出てないのでこの先の展開は何とも言えないが、これまでのところ1〜2巻ごとにひとつのまとまった物語になっている。
第3巻と第4巻に登場するのがグーグーとリーンだ。
幼いころから市場で働く貧しい少年グーグーと、裕福な家庭に生まれ豪邸で何不自由なく暮らす少女リーン。
荷車から落ちた丸太からリーンをかばって大怪我を負ったグーグーは酒爺と呼ばれるマッドなじいさんに助けられ一命をとりとめたたものの、ひどく損傷した素顔を隠すために仮面をかぶるようになった。リーンは自分がグーグーにかばわれたことを知らないまま、ある日二人が再会する。
これがグーグー。
不滅のあなたへ第29話、今日発売のマガジンに載ってます!お見逃しなく!#週刊少年マガジン #週マガ #不滅のあなたへ pic.twitter.com/4yJb8lUv78
— 『不滅のあなたへ』第5巻11月17日発売 (@fumetsunoanatae) 2017年6月21日
こっちがまだ生意気そうな幼少期のリーン。
現在発売中の20号に『不滅のあなたへ』第20話が掲載されてます。要チェックですよ! pic.twitter.com/gzqqU5OhvE
— 『不滅のあなたへ』第5巻11月17日発売 (@fumetsunoanatae) 2017年4月12日
ベタベタな設定、だがそれがいい
貧しい男と世間知らずのお嬢様の恋という、もう手垢が付きまくった設定。仮面の男というのもありがちといえばありがち。
不死身の存在フシやその謎の敵ノッカーなど『不滅のあなたへ』ならではの独特な要素で周辺が彩られているが、幹となる設定と展開はベタベタ。
だがそれがいい。
ベタで何が悪いか!
細部まで丁寧に描きながらも冗長にはなっていない絶妙なスピード感で物語は進む。
酒爺がグーグーを治療したついでに腹に酒が入るように改造していたというのは、最終的にフシに火炎放射能力を習得させたいという理由があったにしても、さすがにイカれすぎてるだろうと思う。
が、自分の境遇に負けずひたむきに懸命に生きるグーグーを見ていると、第4巻26話のラストの酒爺のセリフにグッとくる。
なンで俺はじじいなんだろうって思ってな
どうあってもグーグーより俺が先に死ぬのが悔しくてな
あいつには家を出て大人になって
好きな道を選ンでなりたいもンなって
そういう当たり前の人生を送って欲しいンだ
それを全部まるっと見届けてから俺は死にてェもンだ
『不滅のあなたへ』第4巻 26話
「フラグを立てるようなセリフを言うな酒爺!この変態野郎が!」と思うが、読者としては完全に酒爺の気持ちに共感してしまう。
リーンと一緒に幸せになってくれ、グーグー!
感涙必至の結末
…と、読者がいくら幸せを願ったところで、『不滅のあなたへ』は「出会いと別れの物語」である。フシはグーグーと出会いやがて別れる。悲しい別れだ。
ラストシーンがいい。第4巻29話、タイトルは「仮面の最期」。文字通り「仮面の最期」。
グーグーとリーンが二人で話すところはコマ割りもセリフも絶品。
そして最後は見開きでドン!
「仮面の最期」はこれしかない、というようなラストシーン。
リーン「あなた このままじゃ 一生 誰ともキスできないわね」
『不滅のあなたへ』第4巻 27話
からのコレだ。感涙。感涙ですよ。展開が読めていても泣ける。
『不滅のあなたへ』はとっつきにくい漫画だと思うが、ぜひ4巻まで読んでグーグーとリーンの物語を見届けてほしい。
大今良時と『不滅のあなたへ』の今後の展開
風呂敷を広げようと思えばいくらでも広げられそうなストーリーの『不滅のあなたへ』だが、この先はどう展開していくのか。
出会いと別れを繰り返し自我を確立させたフシが黒いローブの男に打ち勝ち(=親殺し)解放される、みたいな陳腐な話ではないだろう。
最新巻の5巻では1巻と2巻に出ていたパロナとハヤセが再登場したり(パロナは思わぬ形だったけど)するなど、全体のストーリーの構成やプロットがしっかり練られているのは間違いない。
1巻の少年とその集落の大人たちが目指した「楽園」もどこかでストーリーに絡んでくるかもしれない。『不滅のあなたへ』はいろいろと考察(というか妄想)するのが楽しい漫画でもある。
…
『聲の形』が全7巻でバシッと完結したように、『不滅のあなたへ』も無駄なく描ききってほしい。ダラダラと続くような作品にはなってほしくないな。
大今良時先生には10巻くらいで完結する名作をたくさん描いてほしいと思う。