貫井徳郎「乱反射」を読んで、我が身を省みる
人の振り見て我が振り直します、すみません
貫井徳郎のミステリ(?)「乱反射」を読んだ。
貫井徳郎といえば後味の悪い作品で有名だが、この作品も読んだあとに我が身を省みずにはいられない名作だった。人の振り見て我が振り直さないといけないな、と思わされた。
ジャンルとしてはミステリやサスペンスになるのだろうが、犯人とかトリックを探るような作品ではない。
あらすじ
普通の市民達のちょっとしたモラル違反が重なり、2歳の子供が犠牲になる事故が起こる。−44章から始まり、0章で事件が発生、37章で終わるという構成になっている。
「これはあるひとりの幼児の死を巡る物語である」からはじまる序文を読むと、前半で出てくるイヤな登場人物たちが事件の原因を作るんだろうな、という大体の内容は想像できる。
特にどんでん返しがあるわけではないし、謎が謎を呼ぶといったものでもないが、一気に読まされる。
あらすじ
強風で街路樹が倒れ、側を歩いていた女性が押していたベビーカーに直撃する。止まらない血に動転する母親を様々な不幸が襲う。病院の患者たらい回し、軽い風邪程度で夜間救急を利用する若者たち、ある病気により街路樹の診断を怠ってしまった業者、街路樹の伐採に反対し診断業者を追い返した主婦たち、プライドから犬のフンの片付けを途中で切り上げた市役所の職員、犬のフンを片付けなかった老人、少しずつのモラルのない身勝手な行動が不幸の原因を作っていった。 乱反射 (小説) - Wikipedia
責められているのは登場人物ではなく読者
事件が起こったあと、被害者の父である加山が事故の遠因を作った一般市民達を追求していく部分は、同じく一般市民である自分が責められているようで読んでいて辛くなる。
明確な犯人がいないのが怖い。誰もが悪くて、一方で誰も悪くないともいえる。加山自身もそう理解している。
加山が糾弾した"些細な自分勝手"は誰でもしていることだ。その結果がたまたま人ひとりの死に結びついたから特別に見えるだけで、何百万何千万もの人が毎日やっているようなことなのだろう。 単行本版 P489
自分にはやましいことは何もないと胸を張って言えるだろうか、と自問してしまう。登場人物たちに対して、なんてイヤな奴らなんだと思うと同時に、自分自身にも彼ら彼女らのような醜い部分があることは紛れもない事実だ。
エピローグは爽やかな雰囲気で、読後感はそこまでジメッとしたものではないのが良かった。
淡々とした文体なので、退屈に感じてしまう人もいるかもしれないが、読んでいてキリキリと締め付けられるような体験は貫井徳郎作品ならではのものだと思う。オススメです。
(以下、若干ネタバレ)
冒頭のサービスエリアでのゴミ捨てがすべての発端になってたりするのかと予想しながら読み進めたけど、そういうわけではなかった。そこまでつながってしまうとさすがに救いがなさすぎるか。