TBSテレビ版『カイジ』感想〜優勝のニートチャーハン福田に感動
TBS『人生逆転バトル カイジ』(2017年12月28日放送)を観た。演出は『水曜日のダウンタウン』でおなじみの藤井健太郎。
原作の『カイジ』も大好きだったので実写化は不安と期待が半々だったけど、おもしろかった。感想を書きたい。
優勝したニートチャーハン福田剛佳に泣いた
今回のMVPは間違いなくニートチャーハン福田だろう。本名、福田剛佳(ふくだつよし)。24歳。
ニートで金がなく365日チャーハンを食べ続けているからニートチャーハン。チャーハンニートではなくニートチャーハン。
ニートチャーハン動画
放送前に公開されたYouTubeの紹介動画はこちら。
絵に描いたような気力の無さ。
文字通り、まさに無気力。
「無」の体現者が見せた本気
人はこんなにも「無」を体現することができるのか。
「鉄骨渡り」後の敗者復活アピールでうさんくさい遊戯王ホストを見てつぶやいた「(敗者復活させるのは)ホスト以外だったら誰でもいいっす」というセリフにもやる気の無さがあらわれていた。
そんな無気力男が最終ステージの「ペリカ双六」では1分で2リットルの水を飲み干す圧倒的覚悟を見せ、最後は優勝。
「真っ当に生きていきたいと思います。働いてるほうが人生楽しいんじゃないかと思いました」という勝利者インタビューでの一言にはジーンときた。
チャーハン、チャーハンからのどん兵衛
数々の名場面を見せてくれたニートチャーハン福田だが、特に地下生活一日目の夜に色んなメニューがある中からチャーハンを選んで食べてたところと、最後の自宅でのインタビューでカップラーメン(どん兵衛?)を食べてたところが最高だった。
地下生活一日目の夜は「別のもん食えよ」と思ったし、最後のインタビューは「そこはチャーハン食えよ」と思った。
いい意味で期待を裏切ってくれる福田くんの未来はきっと明るい。
『カイジ』は、ニートチャーハンの成長物語でした。ちょっとだけ良い番組みたいになりました。
— 藤井健太郎 (@kentaro_fujii) 2017年12月28日
感動した!
冴え渡る藤井健太郎の演出と構成
この実写版『カイジ』は藤井健太郎が長年あたためていた企画。著書『悪意とこだわりの演出術』にも書いていた。
「鉄骨渡り」で落ちたあとの様子を映さないのがよかった。でかいクッションに落ちるところを見せられたりしていたら興ざめだったと思う。
「安全に配慮してます」みたいな注意テロップがないのもいい。採血のときはさすがに「この採血は血液検査」って出てたけど、あれは逆に面白かった。
ムダのなさにもシビレた。地下の労働で作ったボールペンが視聴者プレゼントだったり、造花が「ペリカ双六」で使われたり。『水曜日のダウンタウン』のリアルスラムドッグミリオネアみたいな「構造の遊び」だ。
年末のプライムタイムの特番にもかかわらず芸能人は利根川役の名高達男と出場者の芸人3人(元巨匠・岡野陽一、こりゃめでてーな・伊藤こう大、空気階段・鈴木もぐら)のみ。これもムダがなくて素晴らしい。
福本伸行作品への愛
番組の端々に感じられた福本伸行作品への愛もステキだった。
随所に挿入される福本作品オマージュ
なにより『アカギ』の鷲巣麻雀オマージュの採血。あれをテレビで実写で見られる日がくるなんて。『銀と金』の画商対決の札束の橋も出てくるんじゃないかと期待してしまった。残念ながら出てこなかったけど。
もちろんテロップやナレーションは「Congratulation!」とか「僥倖」とかの福本テイスト。
考え抜かれたゲーム
そしてオリジナルゲームの「多数決カード」。
オリジナルなのに『カイジ』感がちゃんとあって、原作の「限定ジャンケン」のエッセンスをしっかり抽出していたと思う。「限定ジャンケン」は少人数だと面白くないし、かといって大人数でやったらテレビとしてわけわからなくなるだろう。「多数決カード」を考えた人エライ。まさに悪魔的発想。
ただ、最後の「ペリカ双六」がペリカのやり取りはあるものの結局サイコロの出目次第でイマイチひねりのない運否天賦の勝負だったのは残念だった。
あとせっかくだから双六のあともう一勝負あってほしかった。すぐに金を渡すなんて利根川がいい人すぎる。利根川じゃなくてトネガワなのかな?
地下での労働の報酬が高額すぎるんじゃないかとも思ったが、まあそれは別にいいか。
キャラの立った出場者たち
期待していた元巨匠・岡野と『ザ・ノンフィクション』の地下アイドル・大浦忠明(きらら)が早々に敗退してしまって不安になったけど、MVPのニートチャーハン福田を筆頭に他のメンツもキャラが立っていて楽しめた。
「多数決ゲーム」で大活躍した孤児院育ちのヤバい奴・山根隆洋や、「鉄骨渡り」の敗者復活アピールで「心臓の音を聞いてほしい」と言って胸を触らせようとした色仕掛けの女・佐佐木智子は是非またどこかで見たい。
他の藤井健太郎番組に出てこないかな。
途中から唯一の芸人となった、こりゃめでてーな・伊藤もいい仕事してた。売れてほしい。
出場者たちのTwitter
ツイッターをやってる出場者たちもいる。福田くんの就職活動の経過は見逃せない。
- "競艇主婦録トネガワ" 戸根川公代
- "ニートチャーハン" 福田剛佳
- "母をたずねて1000万" 佐佐木智子
残念だった放送時間の短さ
残念だったのが、2時間という放送時間。短かった。
あの濃密で盛りだくさんの内容を2時間に編集してまとめたのはすごいと思うけど、もうちょっとじっくり見たかったというのが正直なところ。
「多数決カード」は上で書いたようにすごく考えられたゲームだったが、ルールとそのおもしろさを理解する時間が圧倒的に足りなかった。
放送時間をあと30分増やすか『マグロ』ばりに二夜連続にしてほしかったなあ。
地上波テレビ番組とネット配信番組との大きな違い
今回の『カイジ』を観て、地上波テレビ番組とネット配信番組との大きな違いを感じた。
放送コードや表現の規制ではない。
放送時間(再生時間)と放送間隔(配信間隔)の自由度だ。
クリエイターが最適な時間をコントロールできるか
『ドキュメンタル』や『野性爆弾のザ・ワールド チャネリング』など、Amazonプライムビデオオリジナルのお笑い番組はエピソード(回)によって再生時間が違う。30分だったり50分だったりする。
Netflixでもオリジナルドラマシリーズの再生時間はエピソードごとにまちまちだ。
ネット配信(ストリーミングサービス)のコンテンツ(番組)の再生時間はクリエイターの裁量である程度コントロールできるのだろう。
対して地上波のテレビ番組は放送時間が決められている。
この違いは大きいのではないか。
それぞれのコンテンツにとって最適な時間があるはずで、それをクリエイターが簡単に調整できない地上波のテレビ番組は結構大きな足かせをはめられているように感じる。
放送間隔(配信間隔)もそうだ。地上波テレビは毎週・毎日あるいは単発の放送ぐらいしか選択肢がないが、ネット配信番組はどんな間隔で配信してもいい。Netflixのドラマは一気に全話配信されたりする。
今回の『カイジ』も、各ステージを適切な放送時間にして三夜連続とかにしたらもっとワクワクして楽しめたかもしれない。
地上波のテレビはいろんな制約の中で戦っていかないといけないんだな、大変だな、と思った次第です。
特異な存在、AbemaTV
ついでに、AbemaTVはやっぱり特異な存在だと思う。
AbemaTVは放送時間が決まっている。そもそも地上波テレビのように番組表がある。地上波とネットのいいとこ取りというよりも悪いとこ取りなんじゃないかという気もする。
その代わり、ほかのネットストリーミングサービスにはないダラダラした生放送が魅力的なんだけど。
シリーズ化に期待
ということで、なんか話がそれてしまったが、テレビ版『カイジ』は期待以上のおもしろさだった。
原作の『カイジ』を知らない人がどれくらい楽しめたのかは分からないけど、今回限りで終わらずに是非シリーズ化してほしい。
楽しみにしてます。