千鳥ノブと椎名林檎に見る「言葉の構造」を創り出す才能
テレビ東京『青春高校3年C組』を見ている。
生放送は生で見るのが一番だと思うが、さすがに夕方の帯番組を毎日リアルタイムで見るほど暇でもないので見逃し配信を利用している。正味20分くらいでスキマ時間に見るのにちょうどいい。
豪華なMC陣のなかでも輝いているのが千鳥だ。ロケをやっても漫才をやっても10代の一般人と絡んでも面白い。ノリにノッている。
ノブがゲストとして登場したラジオ『オードリーのオールナイトニッポン』(2018年4月21日)も面白かった。この回でノブが放った言葉に感銘を受けたのでそれについて書きたい。
白髪ヒゲ帯ラジオである。
椎名林檎の「熟語(漢字)+カタカナ」
ノブの話をする前に、言葉の構造(パターン)のトレンドを生み出した人物として椎名林檎の話をしよう。
椎名林檎が多用していたパターン
椎名林檎のパターンといえば「熟語(漢字)+カタカナ」だ。
たくさんの例がある。
- 無罪モラトリアム
- 勝訴ストリップ
- 弁解ドビュッシー
- 病床パブリック
- 発育ステータス
などなど。
最近はほとんど使っていないと思うが、椎名林檎がシーンを席巻していた2000年前後に多用していたため、いまだに椎名林檎といえばこういうタイトルのイメージがある。
数多くのフォロワーたち
この「熟語(漢字)+カタカナ」パターンは数多くのフォロワーを生んだ。こういうタイトルの曲が本当に山ほど作られた。
中でも印象深いのは堂本剛だ。
堂本剛が2002年にリリースしたソロデビューシングルは両A面の『街 / 溺愛ロジック』。
「溺愛ロジック」は曲名も曲調も歌い方も明らかに椎名林檎の影響を受けまくった楽曲だった。ちなみに「街」はミスチル、バラエティ番組での立ち居振る舞いはダウンタウン松本人志の影響を受けていた。
堂本剛は私にとって少し上の世代だが、好きなものの影響を隠そうともしない姿を見て「堂々としてすげえ」と思った。皮肉でもなんでもなく。
堂本剛の思い出話はさておき、多くの人がついつい真似したくなる「熟語(漢字)+カタカナ」パターンの火付け役である椎名林檎は見事な言語センスの持ち主といえるだろう。
千鳥ノブの創作複合語
そして千鳥ノブ。
千鳥ノブといえば「クセがすごい」「〇〇じゃ」のような嘆きツッコミや岡山弁のフレーズがフィーチャーされることが多いが、ノブの特徴として挙げたいのがこれだ。
複合語の創作である。
上に書いた椎名林檎の「熟語+カタカナ」も複合語の一つなのでレベル感があっていない気がするがご容赦いただきたい。
大〇〇
「クセがすごい」に並ぶノブの必殺フレーズが「大〇〇」。
- 大太カチカチストレート
- 大バラエティ
- 大回し
など。
一般化すると、形容詞の漢字と名詞の組み合わせ。
代表的な「大〇〇」を見出しにしたが、「大〇〇」に限らず、夏木ゆたかを「老ライオン」と表現したのも同じ部類といえる。
ノブのこういう言い回しにドップリ浸かると、「大相撲の大砂嵐」はもうノブのセリフとしか思えなくなるし、居酒屋のメニューの「黒霧島」さえも「千鳥ノブじゃないんだから」と思ってしまう。
一発ギャグや決め台詞のように特定の言葉ではなく、言葉の構造(パターン)がその人を思い起こさせるというのはまさに椎名林檎の「熟語+カタカナ」と同じ。
複合名詞(名詞の連結)
ノブの創作複合語はさらに進化する。
『オードリーのオールナイトニッポン』(2018年4月21日)にゲストとして登場したノブが放った名言にシビレた。
白髪ヒゲ帯ラジオだ。
「白髪のヒゲのオッサンがやってそうな帯のラジオ番組」の助詞を省略して名詞だけをつなげた言葉。成り立ちとしては「満員の電車」の省略である「満員電車」と同じ。「フクロテナガザル」みたいな動物の名前にも近い。
もちろん白髪ヒゲ帯ラジオなんていう言葉は存在しない。
が、なぜかものすごくはっきりイメージできる。なんか知らんけど「ああ、白髪ヒゲ帯ラジオね、なるほど」と納得してしまうパワーがある。
この名詞の連結も最近ノブが度々使っているパターンだ(残念ながら具体例がまったく思い出せないが)。
「大〇〇」のように、こういう構造の言葉を聞くとノブっぽいなと感じる。
真似したくても真似できないパターン
椎名林檎の「熟語(漢字)+カタカナ」パターンは多数のフォロワーを生んだ。
ノブの複合名詞パターンも真似してみたくなるほど魅力的だが、簡単には真似できない。厳密には、真似はできてもノブのように面白くならない。
「〇〇の☓☓の△△」を「〇〇☓☓△△」に変換するというルール自体はシンプルだ。汎用性も高いし、組み合わせも大量にある。
しかし、選択肢が無数にあるがゆえにその中から最良のものを選ぶのは難しい。
ましてや曲名のように長い時間をかけて考えるのではなく、ツッコミとして瞬発力が要求される場面でこのパターンを使いこなすのは並大抵のことではない。
千鳥の勢いはまだまだ続く
お分かりいただけただろうか。
千鳥ノブは、「クセがすごい」「〇〇じゃ」という定型のフレーズに加え、往年の椎名林檎のように人を惹き付ける言葉の構造(パターン)を創り出すことができる稀有な才能の持ち主なのである。
真似しやすい「大〇〇」パターンから真似できない複合名詞パターンまでを自在に操るノブに死角はない。
そして言うまでもなくこのような定型フレーズやパターンはノブの魅力のほんの一部でしかなく、千鳥にはもうひとり大悟という化物もいる。
キツめの女性問題でも起こさない限り千鳥の勢いはまだまだ続くだろう。